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「……“お兄ちゃん”」
ボソッと、瑠璃が呟く。
「え?今なんて言ったの?」
しかし、慎にらそれが聞こえなかったようで再び瑠璃に尋ねる。
だが、
「い、いえ!なんでもないです!」
恥ずかしさから逃げるように、瑠璃は顔を俯けて何でもない素振りをしていた。
なんとも不器用な妹だろうと、兄貴の視点で思わず嘆息してしまった。
「(はぁ……相変わらずだな)」
もう察しの通りだと思う。が、敢えて確認のために言わせて頂きたい。
この妹、幼馴染みである慎に──。
「べ、別に頭を撫でられたって嬉しくもなんともないんだからっ!」
ベタ惚れである。
今でも鮮明に思い出す。幼少の頃から御堂家と結城家は親しい付き合いをしていて、当然と言うか必然と言うか、その子供たちも一緒に遊ぶ関係だった。
ちなみに俺は一度も妹に『お兄ちゃん』なんて可愛い声で呼ばれたことなどはない。よくて『秀一』とか『兄さん』とか『兄貴』だからだ。
だが、慎は違った。
幼い瑠璃はどこにいくでも慎の後ろをトコトコと着いていき、まだまだ舌足らずな声で『おにいちゃんまってー、るりと遊んでー』とか言っていた。
実兄を差し置いて幼馴染みを取るとは兄さん悲しいっ、とか小学生低学年の頃は思ってはいたが、月日が経つにつれつまらない嫉妬心も薄れていった。
まあ、呼び方なんてどうでもいいのだが。
これだけ長々と話して自己完結かよっ、と突っ込んでも構わない所存です。
「あ……ゴメン、嫌だった?」
しゅんと、幼馴染みに叱られて肩を落とす慎。
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