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「(ひぇぇぇえええ……っ、おっかねぇ)」
ガタガタブルブルと俺は震えた。もしかしなくても俺の周りだけ氷河期が訪れてしまったらしい。
だって、肩を組む慎にも俺と同じように寒さに凍えていたからな。
「……ヤバい、ヤバいって」
同感だ、同じ心境を抱える同士よ。
動物的本能がフルに働いている。今すぐにここから離れろと訴えていた。
だが、足は地面に縫い付けられたかのようにピクリとも動かなくて、俺と慎はただただ大人しくほとぼりが冷めるのを待つしかなかったから。
「あはは、面白い冗談ね。まだまだ“お子ちゃま”な瑠璃ちゃんには過ぎた言葉に思えるけ ど?」
瑠璃の放った“お義姉様”という言葉に眉を寄せた漆。それに対しての反応は、年端もいかない“小娘”を嘲るような口調で言葉を返していた。
が、瑠璃も負けてはいない。寧ろ倍にして突き返すように、
「あは、ごっめんなさ~い。私ったら主語を忘れてましたわ。『未来のお義姉様』と言いたかったの。失礼な言葉ですみませんね。何せ、貴女様より“若い”もので、所謂“若気のいたり”です」
敢えて“若い”を強調しつつ、喧嘩腰で食い付く瑠璃。
しかしながら俺は目の当たりにした。我が妹が突き刺した言葉を受けた瞬間、大気が……否、世界が揺れたのを。
もうね、悟ったよ。俺も慎もね。
リフレッシュの為の休日が、この瞬間にギスギスとした空気に塗り替えられたのが、さ。
「……秀一」
「……何も言うな。なんかゴメン」
「……いや、これは不幸な事故だよ。誰一人として悪い人なんていない」
「……ああ、すまねぇ。ちっとばかし自暴自棄に陥ってた。こんなの、考えれば未然に防げたのに」
「……そうだね。うん、そうだよ」
「……なぁ、慎」
「……分かってる。死ぬときは一緒だ」
「……心強い言葉だ」
今、この瞬間。俺たちは無我の境地に達した。
残りの余生を悔いなく過ごしたかったと、今更ながら思っていた。
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