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四面楚歌──という言葉を知っているだろう か?
周りが敵や反対者ばかりで、誰一人として味方がいない孤立無援な状況を指す言葉だ。
弟の僕が言うのもアレだが、我が姉──御堂 漆は希代の美少女である。
日本人特有の艶やかな黒髪に、黒曜石を思わせる双眸。起伏に富んだ身体は異性の視線を釘付けにして離さない。
そんな絶世の美少女が自分の姉で、しかも自分に有り余る程の愛情を向けられているのだから不思議だ。
「──どうかな?似合う?」
「……いいんじゃない」
こんな受け答えも、かれこれ二十回目。
最早機械的に返答をするだけになっていた。
さらには、
「“お兄ちゃん”こっちも見て!!」
漆に対抗するように彼女──結城 瑠璃までもが服を片手に意見を求めていたから。
どうやら感情的になると瑠璃は慎のこを『お兄ちゃん』と呼んでしまうらしい。
昔の名残かどうかは定かではない。が、別段悪い気はしないし、寧ろ微笑ましくもあった。
幼少期の頃から可愛らしい容姿で、中学三年生となった今では学園内のアイドルとまで言われているらしい。
第二の兄として誇らしくもあり、少しだけ寂しい気持ちもある。
まあ、それはそれとして。
「イインジャナイ?」
姉と妹の板挟みに耐えきれなくなっているのは誤魔化しようもないのだから。
かれこれ数時間はウインドショッピングが続いていて、女の子達の迫力にただ呆然とするだけ。
……これが女子パゥワァーか。
「……あのさ、そろそろお昼にしない?休憩も兼ねてファミリーレストランで何か食べようよ」
自然な切り出し方だったろうか?如何せん、会話の切れ目を縫うようにして提案を挟んだつもりだったのだが、タイミングを間違えてやぶ蛇になることも危惧していた。
しかし、二人は揃って僕を見るなり、
『行く!!』
即答でしたね、うん。
良かった……これで少しだけ休める時間を確保出来たし、この後の対策も練ることが出来る。
とにかく今はただ願うのみ。
────なるべく平穏に事が済みますように、 と。
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