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だが、平和な風景の中には必ずといっていほほど“違和感”があるものだ。
「……ん?」
観察するように人々を眺めている最中、ふと喧騒に紛れて一際目立つ声が聞こえた。
それは次第に人々の注目を浴びていき、混雑した雑踏を掻き分けるようにして騒ぎの中心にいた“二人”が慎と秀一の目にも映る。
『お、おまえっ……前にぼ、僕から金をタカった奴だろ!?』
『……っ』
一見してひ弱そうな男性が、一人の男の胸ぐらを掴んで叫んでいた。
その光景は誰が見ても異様で、皆同様に息を呑む。何故なら、
「なんだよ、ありゃ……」
「不良っぽい奴が明らかに格下の男に暴力を振るわれてる……」
酷い言い方かもしれないが、普通は立場が逆の筈。強者が弱者に理不尽な暴利を働く──それがここ最近の現状だった。
だが、あれはどう見ても──。
『おらっ、おらぁ!なんとか言ってみろよ!!あの時みたいに僕から金を奪い取ってみせろ!』
『ぅ、ぐっ、もう、止め──』
“弱者が強者を虐げている”
遠目にその様子を伺う人達も、ただ唖然とした表情で、不良に暴力を行使する彼を見る。
『は、ははっ、お前みたいな人間のクズはちょっとでも悪いことをしたら消されるもんな!!』
『っ、ひぃ!?』
顔面をひたすらに殴られ、痣や腫れが無数に浮き上がっていく。それに、彼が放った言葉に対して異常なまでに肩を震わせていた。
その言葉を聞いてハッと表情を変えたのは不良だけではなく、
「……そういえば、聞いたことがある」
「え?」
手に顎を乗せつつ、思い出したかのように秀一が呟いていた。
この光景を見て何を思い出したのかなどと、最初は怪訝そうに考える慎だった。
だが、突然脳裏を過る“今朝の出来事”
あれはそう──。
早朝の時、漆と一緒に見ていたニュースの映像。
『──本日未明、ビル街にある路地裏にて身元不明の死体と無惨に飛び散った血肉が発見されました。依然と犯人に目星は付いておらず、殺害方法も謎のままであることが現状。警察庁もこれを魔法による殺人と予想を立てて現在誠意調査中──』
怪奇殺人のニュース。
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