TrueEpisode1【違和感】

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「姉さんもさ……少しは飽きない?弟にばかり執 着してたら青春なんてすぐに過ぎ去っちゃう よ?」  と、口では言いつつも漆の頭を撫でるツンデレな弟。裏腹な行動に思わずこちらが嘆息してしまう。 「ふふっ、慎くんのそういう然り気無い優しさが 好きなの」  撫でつつ、丁寧に手櫛で髪を鋤(す)き通す様子はとても姉思いな雰囲気を醸し出していた。  理想の姉弟像と言えなくもない。 「……これくらい普通だよ」  やはり、膠(にべ)も無い。 「ツンデレな慎くんも大好きっす!!」 「うぷっ、頬擦りで火が起こせそうだよ」  磨り減らんばかりに頬を押し付ける姉に対し、 慎も無闇に抵抗はせずに大人しくする。  結局折れるのはいつも僕の方だ。とはいえ、特に不満があるわけでもないが。  と、和やかな時間が過ぎる最中だった。 『今日のニュースをピックアップ!!今週の出来事を まるごとお伝えしちゃいます!』  軽快な態度のアナウンサーがテレビの中で叫んでいて、その声音に思わず慎と漆も注目する。  アナウンサーが右手に握る、矢印を先端に付けた棒を空中で振った。すると、画面上に五つの項 目を刻んだブロック状の物体が現れる。  その一つをアナウンサーが読み上げると、ブ ロックが形状を変え画面全体を覆う。  瞬く間に、その日のニュースを記録した映像に切り換えられて説明が加えられていた。 『本日未明、○○市内にある人気の少ない路地裏 にて、身元不明の遺体二名と意識を失った男性を 発見。周り一面には誰とも分からない血肉が飛び 散っており、警察はこれを怪奇殺人と見て現在勢 威調査中』  映像にはいくつもモザイクが施されており、殆ど画面上を埋め尽くしていた。  あまり子供の衛生教育上よろしくない映像だ が、報道機関には驚愕の事実を伝える義務があ る。故に、画面を通して視聴者に警戒を促す意味も込めて、だ。 『最近から頻繁にこういった残虐な殺人が報道さ れていますが、犯人は未だに捕まっておらず、殺 人方法にも疑惑の念が飛び交っています。皆さま も深夜に徘徊なさるのはご遠慮して頂きたく存じ ます』  短く黙祷を済ませ、アナウンサーは静かに冥福を祈る。
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