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「えーっ、年上のおねーさんが好きなんでしょ?母さんの目は誤魔化せないんだからね」
「……」
思わず言葉を呑み込んでしまう。
別に好きか嫌いかの二者択一を迫れたら、無難な返答で“好き”と答えてはしまうが、それはあくまで『どちらかといえば』という曖昧な範疇での話。
かといって、母親の前でそれを強く否定してしまうと、さらに脚色に脚色を加えた捏造話を延々とする可能性がある。
「僕のことは取り敢えずは置いといてさ」
「おぉぅ、盛大な閑話休題に持ち込んだね慎くん。会話を根本からぶったぎるなんて凄いとしか言えないよ」
「あー、聞こえない聞こえない」
慎が取った対抗策はつまるところ『強制話題終了』。又は誤魔化しとも言い換える。
「今回の母さんの滞在時間はどのくらいなの?」
問題は母親の帰省である。やはり何と言っても久しぶりの家族の対面だ。こちらとしても限られた期間ではあるが家族団欒の機会を設けたいと思っている。
慎の予想だと、短くて三、四日。最長で一週間ほどだと推測。まあ、あの母親なら有給を一日二日と取る筈もないと踏んでの予測ではあるが。
案外的外れでもないと──朔夜の言葉を聞くまではそう思っていた。
しかし、
「んー、一年間だよ~ん」
「…………え?」
「え、何か?」
「何かって何が?」
「だから一年間」
「……んん?」
「あれま、悠と同じ反応だねぇ」
「…………」
たっぷりと時間を消費して沈黙してから、
「いやいやいや!何やってんのさ母さん!?」
「あっはー、父息子共々ありがとうございましたー」
けらけらと反応を楽しんでいた。
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