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そして、暫く間を置いてから気持ちを切り替えたかのように表情を笑顔に戻していた。
『続いてはビックニュース!今月末、アメリカから来日する天才演奏家──【御月 響】(みつき ひびき)くんが日本で公演するとの最新情報を入手しました!』
再び矢印を右に払うようにして、長方形のブロックが画面全体に広がって映像を再生。
大勢の記者郡から放たれるフラッシュを満遍なく受けながら、天才演奏家の御月が空港から出てくる様子が映る。
「わぁ……スッゴいイケメンだね。ま、慎君には劣るけど」
「はいはい、お世辞でも嬉しいよ」
身内贔屓のお世辞を軽くいなしつつ、慎は再び画面に視線を戻す。
少し長めの、黒が含まれる藍色の髪。
真っ直ぐに前を見据えた、やや目尻が下がった瞳に、整った造形の顔。
身長は割と高めで、慎より少し高いか同じくらいだろう。あくまでも画面上に映る等身での感想だが。
兎も角、そこには俗に言う『イケメン』が笑顔を振り撒いていたから。
「にしても、【御月】なんて珍しい名字だね。ま、私達も人の事は言えないけど」
「んー、そうでもないと思うけどな」
他愛ない会話を挟みながら、チャンネルを変えていく慎。やはり最近のニュースは話題性に富んでいて飽きがない。
と、不意に漆が慎の耳元で囁く。
「ね、折角だから外に遊びに行こうよ。休日にゴロゴロするのは退屈なの……ふぅ~」
「そうだね、折角の休日だから満喫しないと」
というか、然り気無く耳に息を吹き掛けないでくれますか?
擽(くすぐ)ったいんですけど。
ほんと、仕草一つ一つが艶かし過ぎて困る。僕の姉はいつからこんな色気を放つ女性になってしまったのだろうか。
「……っしょ、だったら準備してから居間に集合。今日はちょっと遠出しよっか」
姉の抱擁から抜け出し、慎はそそくさと自室へと向かう。その際に、『ぶぅ~、慎くんつれないよぉ』と漆が唇を尖らせながら呟く。
……いちいち可愛いな、と。
密かにドキリとしたのは内緒である。
「時間厳守!時は金なりだよ姉さん」
「はぁ~い、了解なのであります」
ビシッと互いに敬礼しつつ、二人は身だしなみを整えるために部屋へと戻っていた。
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