第二章 ヨルナミ

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「いやぁ、実にいい風だ」  高層マンションから見下ろす美しい夜景を背景に、実にありきたりな台詞を吐くヨツヤさん。  そこで僕は、実は彼女が遠目で見ると綺麗なプロポーションをしている、という意外な事実を知るに至るのだが、それを敢えて口にはしない。  何せ、仕事やる気ゼロの彼女に代わり、僕が彼女の分まで仕事をしなければいけないからね。僕には彼女と絡んでる余裕はない。 「竹内さん、一ついいですか?」 「あ、はい、なんでしょうか」  開けっぱなしの窓から、ピュウと涼しい風が部屋の中に吹き抜ける。  せめて窓は閉めろよ。 「この動画のことで、他に知っている方はどなたかいますか?」 「一応、ナツキを探す手掛かりを少しでも掴むためにYouTubeの方に投稿しました。なので、かなり多くの方が目にしているかと」 「なるほど……」  かなり多くの方、ね。  僕は心の中に嫌な蟠りが広がっていくのを感じる。 「それで皆さんの反応は?」 「えっと、そうですね。ポルターガイストとか心霊だとかいう人もいましたが、先程ハトさんが仰ったように、蝶じゃないのかと言う人もチラホラいました」  なるほど、僕だけじゃなかったわけだ。あの映像を見て蝶や蛾を連想した人は。 「夜の蝶、と」 「夜の蝶?」思わず僕は聞き返す。 「はい」真剣な眼差しで首を縦に振る竹内加奈子。「これは警察の方に聞いた話なのですが、この一連の失踪の被害者は全て女性らしいんです」 「全て女性?」 「はい」  嗚呼、確かに言われてみればそうだ。  僕の母も、今回被害に遭った夏樹も、以前僕が見た防犯カメラの被害者もみんな女性だった。  それ以外にも、かつて僕がプロファイリングした被害者の全てが女性の人だった。  これは何かあるな。 「被害者に特徴がある。要するに犯罪性があると、そう言いたいんですね?」 「……はい」  レザージャケットのポケットの中から手帳を取り出し、今聞いた内容を書き留めておく僕。  確かに言われてみると、ただの自然現象やポルターガイスト現象なら性別を問いはしない。  そう考えると、ヨルナミは誰かの意思で動かされているってことか。  そこで僕は、チラリと竹内さんを視界に映す。image=474839409.jpg
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