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「それもそうだな」と頷くヨツヤさん。
よくこんなんで探偵が勤まるな。そんな皮肉を込めて、僕は彼女に白い目を向ける。
「それじゃあとっととその同僚に話を聞きに行きましょう。場所はタイガースマンション、ここから一キロも離れていませんから」
と僕が踵を返した途端、後ろで椅子が壁に当たる音がした。
驚いて、僕は不意に振り向く。
「ああ、少し待て、ワトソン君。タンクトップで行くのは何かとまずい」と血相を変え、間髪入れずに隣の特別室へと駆け込んだヨツヤさん。僕の背筋に悪寒が走った。
いや、こうして僕がタンクトップ一枚でいるのは「この部屋が暖房効きすぎて暑い」という理由ゆえの必要に迫られてのことで、別に好きでこんな格好をしてるわけじゃない。
対策されているとはいえ、外は日が出てないせいで結構寒いからね、もちろん上着を着て外出するつもりだ。
でも、そんなことは彼女も知ってるはずだ。そういうことで、こうして待ってる間は何故か嫌な予感しかしない。
「これを着ていけ」
死ね。思わず心で呟く僕。
部屋から出てきた彼女が手にしていたもの。紫のメッシュが入った銀色のウィッグと、至るところに変なトゲトゲが付いた赤と黒のレザージャケット。いわゆるヴィジュアル系ファッションというやつだ。
何あれ、絶対似合わないって。
そもそもこれから僕たちの行くところは事情聴取の場なのであって、コスプレ会場でもライブ会場でもない。ただでさえ"セレブとヤンキーを足して二で割ったような"あなたを連れていくというのに、あんなものまで着ていったら住民に変な目で見られるじゃないか。何が探偵だよ。
だからね、もちろん答えは決まってる。
「却下」
「君に人権はない」
「拒否権以前の問題かよ!」
…………
……
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