アナーキーインザ邪魔烏賊

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アナーキーインザ邪魔烏賊

  最先端科学都市、女登呂(メトロ)町。『人類と自然の調和』を目指し、民間主導で開発された計画都市群の中で、漁業を主軸に発展する港町である。 東京湾に面する町の南側には何十何百もの岬が沖へと伸び、そのまわりへ大小色とりどりの漁船がずらりと繋がれ並ぶ様は圧巻の一言に尽きる。沖には早朝から浅瀬で漁をする足漕ぎ漁船の影が幾つも浮かび、漕ぎ士たちの叫ぶ暑苦しい鬨の声が絶え間無く瑠璃色のさざ波のへ吸い込まれて行く。 沿岸のオフィス街や駅前の歓楽街の大通りには街路トーテムポールが立ち並び、柔和に弛緩した様々な表情のセグメントが見上げるほどの高さまで幾つも積み重なって、くるりくるりと楽しげに回転する。画期的なのはこのトーテムポールを回す動力を用いて、各家庭、施設に水道水を供給している点だ。静かな夜に地面へ耳を当てれば、地下でトーテムポール連動手動ポンプを回す給水士たちの暑苦しい鬨の声が聞こえて来るのだ。 そしてその景観は、月野雪乃が必死に走る裏路地も同じだった。 「待てえぃ、そこの不思議少女! 器物汚損の現行犯で逮捕するっ!」 「はうう、ううっ……」 フードから見え隠れする瞳は既に潤んでいた。狭い路地へ障害物のように林立するトーテムポールを避けながら走り続けるのも、そろそろ限界が見えつつある。 「ひちゅこい……、イカゲソ神族め……! はうぅ……!!」 呂律が回らず噛んでしまうのも気にしている暇は無い。追随する足音は徐々に大きくなって来る。このままでは捕まってイカゲソ神族の儀式にかけられてしまう。必死の思いで角を曲がった雪乃だったが、そこへ突然、何者かにがっしりと右腕を引っ捕まれた。 「ひゃう!?」 驚異的な膂力で引っ張られ、こめかみへ綿でも突っ込まれたように方向感覚が曖昧になる。辛うじてローブが剥ぎ取られた事は分かったが、次の瞬間、背中に走った衝撃で意識が持っていかれそうになる。 しかし直後、覆い被さる重い質感と、人のシルエット。浅い呼吸に朦朧としていた雪乃の意識が、状況を理解して一気に覚醒する。 「いやっ……!!」 「しっ!」 大声を上げようとした途端、唇に柔らかい感触。口を塞いだのは人差し指だった。霞んだ視界に力を込めて焦点を合わせると、そこには思わず息を呑むほど整った、少年の顔があった。雪乃の心臓が更に飛び跳ねる。近い。  
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