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昨日はアホらしいと思いつつも突っ込み続けてしまったが、改めて思い返すとなかなか否定材料が見つからない。思考を重ねれば重ねるほど、正しさなど所詮多数決でしかなくなる。
『この町のトーテムポールはインフラではない。この緩みきった表情で人々を催眠にかけ、町の歪みに気づかないよう洗脳するための呪具だ。おかしいと思わないのか。『イカゲソ神』などという神が日本史の何処かに存在したか? そもそも何故トーテムポールだ、ここはジャマイカか。だが、洗脳された者は疑問にも思わない。イカゲソ神の造り出した町のシステムに飲み込まれ、死ぬまでイカゲソ神の掌の上で踊らされるだけなのだ。そんな命に何の意味がある?』
そんな命に意味は無い。それだけは犬咬詩戸にもわかる。あくまでも社会に抗い、どこまでも自分を貫き本物の自由を掴もうとしたセックス・ピストルズ2代目ベーシスト、シド・ヴィシャスに憧れたからこそ、今の犬咬詩戸がある。一生を安全な柵の中でへらへら飼い慣らされるなど、家畜と何が違う。危険を承知で柵をぶち破ってこそ、本物の自由を味わう事ができるのだ。
あの少女、月野雪乃は、それをわかっているのだ。
そこまでわかっているにも関わらず、あの言動は何なのだろう。本当に詩戸は洗脳されていて、月野雪乃は本気で詩戸を救おうとしているのか。だからうちの猫はアワビなんか食べるのか。
『あのモニュメントもそうだ。さっきイカゲソ神はあそこで大暴れし、私の極大魔法で足を半分は吹き飛ばした筈なのに、洗脳された者からは私がモニュメントに生ゴミを投げつけるようにしか見えない。そうして歯向かう異分子を社会的に殺して無力化するのも奴らの手の内なのだ!』
いや、……それはないだろう。何かここだけ聞くとイタズラの言い訳にしか聞こえない。
本当に、何だかなぁ。
コツン……!!
力の加減を誤った。強めに叩かれた金魚鉢がぐらぐらと揺れ、詩戸の伸ばす腕をするりと滑り落下を始め、
「おっ、わっ!?」
ガシャアン!! 鋭い破裂音と共に水飛沫が散る。
やっちまった! 給餌中に考え事なんかするからだ。クソッ、これもあの女のせいだ。昨日からもうほんとロクな事が無ぇ。
だが、悲劇はそこで終わらなかった。
三毛猫のポールがぴょんと跳んで来て、床でピチピチやっていたグレンを、
「え? 待てポール!!」
「バクリ」
「グレエェーーーーーン!!!!」
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