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通話を終えて、しばし放心する。エブリスタの公式アイドル? 公式アイドルの存在は認知しているが、興味が無いためコメントなどは非表示に設定している。そこに、シド?
いやいや、そんなわけ無いでしょダークスノウ。たまたま知り合った少年がアイドルなんて、今どきどんなに安っぽい恋愛小説でももう少し捻りを加えるって。今はそんな事よりも。
むっと険しい顔つきで画面を睨む。意を決して新着メールアイコンにタッチ。果たして差出人は予想通り、犬咬詩戸。
『おい 何とか言えよ お前のせいで昨日はライブに遅れるわ今日だって朝から散々だったんだかんな』
添付ファイル有り。開いてみると、タツノオトシゴを喰わえた三毛猫の写メだった。
何が起きた。
「いや、ちょっと待って……」
思わず独り言ちる。ホーム画面に戻ってからは、ほぼ勝手に指が動いていた。ライブ? いやいやまさか、そんなわけないよね、きっと見に行く筈だったライブの事だよね。ライブに遅れるって表現を使うなら普通そっちの意味だもんね、ちょっともうハレがあんな事言うから過剰反応してるじゃまイカ。見慣れたE☆エブリスタのマイページ画面から公式アカウント検索画面に行って、キーワードを入力して、検索をかけて……。
犬咬詩戸の顔写真が出てきた。
「ふえぇっ!?」
それはもう犬咬詩戸だった。整った鋭利な顔立ちと、不敵な笑み。見間違いでは無い。そんな馬鹿な。コメント欄へ飛んでみると、大炎上していた。信じがたい事に、カミツキ・シドとユーザーの間で目を覆いたくなるような罵詈雑言の嵐が飛び交っている。
どうやら原因は昨日、カミツキ・シドの到着が遅れてライブスケジュールが短縮された事……。って、
「これ、私のせいじゃ……」
昨日、帰ろうとする犬咬詩戸の袖を引っ張り回して散々買い物に付き合わせたのだった。心拍数が一気に激増して、冷たい汗が吹き出る。
しかし月野雪乃、いやレナード・バレンタイン・ダークスノウは臆さない。あれはイカゲソ神を滅し民を救うために必要な犠牲だった。ライブなどより遥かに重要な任務だったのだ!
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