第一章

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「日本の夏ドーナッツっていう諺があるじゃん? あれってドーナッツも揚がっちゃうくらい熱いって意味なんだよ」 僕が朝から深い思索による考察を語っていると、台所に向かっていた母は律儀に作業を中断してこちらを向いて言った。 「へえ、そうなの。諺の意味がわかるなんてすごいわね、ヒロちゃん」 「何言ってんのよ、お母さん。諺でもなんでもないわよ、このバカの戯言よ」 厳しい言葉を浴びせてきたのは、我が妹である『葦月 葵(よしづき あおい)』。妹の言葉に「あら」といって、再び台所に向かうのは、我が母『葦月 理恵子(りえこ)』。 「醤油とってくれる?」 「やだ」 ちぇ、かわいくないやつ。 「いってきまぁす」 「達者でなあ、たまには手紙くらいよこせよぉ」 我が父、『葦月 清十郎(せいじゅうろう)』。 「夕方には帰るっちゅーの」 「チッ」 毎朝こんな風な様子で、葦月家の朝は過ぎる。我ながらグレなかったことを誇らしく思う。我が名は『葦月 比呂(ひろ)』。花の17歳。
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