第一章

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○ 「いやあ、日本の夏のジメジメには全くなれないな。一年に一回、短期間に来るからこんなに辛いんだろうな。忘れかけた頃に来るから、こっちも大した準備とかできない。小テストもいっしょ――」 高校に先生にして、すでに肉屋の主人級の貫録がある高校2年生が言った。 3時間目の数学がもうすぐ終わりそうなころ合いになってから、安東先生が抜き打ちの小テストを行うと発表したところである。 「おい、野山」 「体罰教師、いや敬愛なるわが師よ。貴殿の授業は毎回が神韻のごとき響きであり、いと短き感じる50分のときの後は、まるで小旅行後のような清かな心持に。当然、感恩にむせぶ次第であります・・・にも関わらず、恩を仇で返す愚行・・・お許しください。かくなるうえは、熱さ沁み渡るこの炎天下の中、自分の限界を越えて舞うこともやぶさかではありませぬ。わが師よ」 安東先生は、窓から外を覗いた。太陽による地面付近の気温が上昇するとともに島国特有の湿気により、景色が歪んで見える。つまり、不快指数MAXであることが一目で分かる校庭を、覗いた。 「ばかが、最初に本音が飛び出してんだよ。校庭10周してこい」 「くっそ」 彼は、僕の幼馴染で昔から妙な縁がある。納豆の糸のようで、風呂場のカビのような、腐ったガンコな縁である。彼については、またそのうちに紹介する機会があるであろうから、ここまでにしておこう。というのも、その彼、『野山 敦(のだ あつし)』が2周目にして野球部の汗が沁み込むグランドに倒れた。あの、巨体では保健の先生だけでは運びきれない。あのままでは、チャーシューのできあがりだ。脂身が多すぎて食えやしない。錯覚だろうが、なんかあいつ溶けてる気がする。 キーンコーンカーンコーン 3時間目のチャイムの音は正に諸行無常の響きなり・・・。
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