結末の書架

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境界が、音をたててめくれた。 「……結末の書架へ、行ったのだろう」 枯れた声が、言葉を紡ぐ。「……力を」と肩を震わせ咽び泣く彼をよそに、また境界は次へと進む。 「鬼どもはどうした? 煙を吐く鉄塊(アブロ・バルカン)で殺したのだろう。まったく、粗暴な技術じゃ」 「……」 「書架は人の立ち入ってはならぬ場所だと何度言ったことか。カルッソ、貴様は見てはいけない神の領域を侵したのだ」 老婆の声に力が入る。皺に隠れた小さな瞳が、少年を射抜いた。 「……認められなかった」 少年がポツリと呟く。 「あんなの認められなかった! いや、認めてはいけなかったんだ。わが軍があんな弱小国に負け、苦汁を飲まされるなど」 「ヴィーナが、凶弾に倒れるなど」と声を荒げる。彼の眉間には深く皺が刻まれ、ギリッと歯が擦れる音が聞こえる。 「だから、燃やしたのか。思い通りにならない世界を……」 「それしかなかった! 神の書いたシナリオから放たれるにはそれしかなかったんだ!!」 「……愚かなことを」 はっとしたように、少年の顔が輝いた。絶望の縁から一筋の光にすがるようなそんな表情。 「そうだ、ババ様。私を、私をそちらに連れていって下さい! ヴィーナもきっとそれを望んでいる」 「……」 チカッと電球が瞬く。 「ヴィーナなら、今朝男と出ていった」 「……え?」 「ヴィーナというヒロインは、今朝旅立ったんじゃよ。新たな物語のプロローグにな」 少年の顔から血の気が引いて行く。最後の希望が今、絶たれた。
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