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「分かるか、カルッソ少尉。ここに貴様の居場所など、立ち位置などない」
老婆の口が、冷酷な事実を淡々と告げる。
「『黒い雲の空』その主人公である貴様の居場所はその世界(ストーリー)だけ。しかしその物語も今やなし」
「……そ、そんな」
「哀れな少尉よ。我が娘の幼馴染みよ、貴様はその止まった世界で、この本を眺めることしかもはや出来ない」
はらり、と境界がめくれる。
「貴様の愛するヴィーナが、新しい主人公とどんな物語を紡ぐのか、自分の愚かさを悔やみながらせいぜい見守ることだ──だ────」
老婆の声はだんだんと遠退き、やがて聞こえなくなった。
後には、雲も時間も何もかも止まった世界で泣き叫ぶ少年の哀願だけが、何度も何度も鳴り響くだけだった。
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