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無論、人の生死を扱っている以上、普通の精神状態では業務をこなしていけない。
しかしそれ以上に、「本当に○○かい?」と訊かれ、当たり前だろと堂々と嘘をつかなければならない背徳感が僕の心を苛んでいた。
今回とて例外ではない。「本当に、本当にヒロシさんかい?」と肩を震わせる婆さんに「もちろんさ」と、いとも容易く嘘を吐いた。
事前調査によると、婆さんもといキヨさんにはヒロシという恋人がいたらしい。
ヒロシは戦闘機乗りで、いくつもの激戦を乗り越えた凄腕のパイロットだったようだ。
当時の日本軍の中では「撃墜王」と呼ばれていたとか。
しかし、太平洋戦争末期、実質日本軍最後の空中戦になる戦いで戦死してしまったとのこと。享年20歳。
「綺麗だなぁ、キヨ」
今回の為に手配したコスチュームは、キヨさんと同じく病人用のパジャマだった。
なんとか一命をとりとめて、長い間大学病院にいたという「設定」をよりリアルにするための物だ。
無茶がありすぎる。
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