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止むことなく花火は継続される。もう、一生続くんじゃないのかとさえ思えた。
「どうしてヒロシさんはあの時、私に一言くれなかったの?
」
「キヨ、俺はな、」花火を見たまま言葉を切る。とりあえず。
「あの時」とは、どんな時だろうか。知っている筈もない。当事者ではないのだから。
沈黙。
何とかしてお茶を濁して過ごせればいいが……。
「私ね、ヒロシさん」
穏やかなトーンでキヨさんが続ける。集中治療室内は少し賑やかだった。それは、細々と流れる、キヨさんの耳元のラジオによるものだった。
「あなたが撃墜王と呼ばれて、私は悲しかったの。あなたが敵の艦隊を撃破したと聞いた日、私は一人で寝床で泣いていた。それって、誰よりも外国の人を殺したという事でしょう? 罪のない現地の住民も殺した事があるんでしょう? それって、ヒロシさんは色んな人から憧れられると同時に恨まれるってことじゃない。そう思うと、私ね、あなたが帰ってきた時に何て声をかけようかずっと悩んでたの」
時計の長い針が59分を指した。時間的に、花火大会もフィナーレだろう。
「結局、帰ってこなかった訳だけど」
カチン。00分。
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