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「すまなかった」
頭を捻りに捻って、やっと口から出たのはこの言葉だった。
これで、天国のヒロシさんの意思を代弁できたのだろうか。
「それで、最近になってね、私気付いたの。人を恨む事は、花火に似ているなって」
シュン、とこちらにも聞こえるくらいの発射音が鳴った。すると、霊魂のような光を纏った物体が揺らめきながら天に昇っていく。
先ほどまでの、「落ちていく」という表現が似合う打ち上げ花火とは風格が違った。
まさに飛翔。使命感に燃える一機の戦闘機が、空すらも越えようと必死に上昇する影と重なった。
「人の恨みって、恨む側に溜まっていく物なの。ああやって、どんどん自分が苦しくなっていく。上がっていくのよね。そして……」
キヨさんがラジオの電源を落とした。
巨大な炸裂音が鳴った。目も耳も、一瞬だけ打ち上げ花火に奪われた。それはキヨさんとて同じはずだ。
不意に、今まで僕が行ってきた業務の1シーンが、切れ切れの白黒フィルムを何枚も見るように頭を過った。
実は偽物の人物だったと知った人々は、天国で僕を恨んでるのだろうか。
下の階に、正確には病室の入り口手前あたりで、「たまやー!」と叫ぶ老人が見えた。
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