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「ある時、一気に爆発するの。復讐だとか、文字に表すだとか、形は様々だけど、何か凄い事も平然とやっちゃうの」
耳はキヨさんに向き直していたが、目は未だ花火にくぎ付けだった。巨大な牡丹が、夜空というキャンバスにスタンプのように落とされた。
「でも」
話は続いていた。
「何をしても残るのは空白だけ。達成感や優越感なんて微塵も感じない。虚しさだけが後を引くの」
「結局、人は人を心から恨むことは出来ない、て事だな」
出来るだけ怪しまれないように、無闇な発言は控えるように意識していた。が、堪えきれなかった。
意思に反して口が開いていた。
……。夜空にもう花火は舞っていない。それに比例するかのように、病室内で会話は一切なかった。
頃合いか。時計を見てそう思った。
「じゃあ、明日も来るからさ。今夜はもう寝なさい。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
キヨさんに背を向けると、そんな言葉が投げ掛けられたが、しっかり理解する事は出来なかった。
足取りがおぼつかない。呆然としていた。
今、僕は人生の分岐点に立たされている気がした。
「明日も来るから」なんて言ったが、もう来る気はなかった。否、来る事が出来なかった。「同じお客様の場所へは二度といかない」のもルールだった。
もしもキヨさんが今夜を乗りきって、明日も私を待っていたらどうしよう。
そして、二度と姿を現さない私にどんな気持ちになるのか。
花火の話を思い出す。もしかしてキヨさんは、僕が成りすましの人物だとわかっているのか。
いずれにせよ、僕にそれらを知る由はない。
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