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「謙遜じゃない」天神はそこで体を勢いよく起こし、ソファから顔を出した。そして宝辺の方を見た。  その口元は、至極いやらしく笑っていた。 「羞恥だ」  そこで二人に、一寸の間が空いた。やがて宝辺は、一種のお約束のようにして、こちらも笑みを浮かべながら、返事をした。 「……そうか」  その直後、二人の間で高笑いが起こった。天神も宝辺も、上機嫌だった。宝辺はそこで、上機嫌を保ちながらテーブル椅子から立ち上がり、西日のかかった自室へ向かい、木製の机に向かい合った。  そして、ブックエンドに差し込んである一冊の黒のノートを手に取る。  宝辺はそれを順々にめくり、あるところでめくるのを止めた。  そこは白紙であった。彼は椅子に座った。  万年筆を手に取る。彼はまっさらなそこの一番上にこう書きだした。 『婦人と猫と、雑貨主。そして、天神の羞恥』  それだけを丁寧に記入して、宝辺はノートを閉じた。  笑みを含んだ口元は、おぼろげながら、しかし確かに、次のささやかだが不思議な事件を期待していた。
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