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まだ午前のことであった。例の灰白色の小鳥がまだ眠そうな顔をして小首を傾げ、桟に寄り道してチュンチュンしている時分であった。
天神はブラックコーヒーをすすっていた。傍らには立てた丸テーブルに灰皿が置かれてある。天神は苦い顔でコーヒーを飲みながら煤けた茶褐色のドアを見つめていたのである。
間もなく音がした。扉が開いた音である。不服そうにして室に入ってきたのは、ただの宝辺であった。右手には土色の手提げのバッグを提げていた。
「遅い」怒ったように天神は言った。宝辺はその天神のその様子に驚いて目を丸くした。
「何が!」応じた宝辺も怒ったように答えた。
天神はコーヒーカップをそっと置いて、一つ息を吸い込んだ。
「買い物は迅速に頼む、とあれほどお願いしたじゃないか。宝辺、君は僕を餓死させるつもりかい?」
「洋書を持たなくたって、別に死にやしないさ」
天神の言葉に呆れ果て、宝辺は奥のテーブルの方に向かい、手提げバッグをその上に下した。
「俺にとってはパンの方が大事だ」バッグから買ってきたものを取り出しながら宝辺は言う。それはフランスパンや、レタスやトマトなどの野菜類、肉もあった。
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