崩壊の中での願い

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 ◇  夜。そう、過去に現時刻は「夜」と呼ばれていた。  だが、この男、イザーナ・ミルゲイツの居座る閉塞された研究室の中は、「夜」というものを連想させるには余りにも明るすぎる。  ――――この世界にはもう、“夜”は存在しない。  自身の研究机に頬杖を付きながら、イザーナはふと、おぼろげに目の前のパソコンのディスプレイから上方へその視野を向ける。  研究室の上部に取り付けられた複数の蛍光灯の形をしたモノに光を与える“ソレ”。  “ソレ”のおかげで、過去にこの世界を襲った『大気汚染』『石油喪失』『温暖化』などの地球規模の問題は払拭され、この世界は救われた。 「ハァ……」  光り輝く原石の様に眩しく照らす“ソレ”の灯りを見つめながら、一つ溜め息を漏らす。  科学とは、何とも不思議だ。いや、この場合は“世界そのもの”というのが適切かもしれない。  研究し、探求して行くほどに明かされていく数々の謎と神秘。そこから生まれる『神の恩恵物』。  そう、男は過去の研究の最中、その『神の恩恵物』の第一発見者となった。  それは、太陽光に含まれる新たに発見された一一○種類目の『元素』。  地・水・火・風・空の五大明王のみならず、電気や石油など、それを媒体にすれば、万物を構成する根源となるまさに奇跡の元素。  そして、後に『神の恩恵物』は【贈り(マナ)】と呼ばれるようになり、その【マナ】をエネルギーへと変換させ、物質や現象を起こすための手段として用いられる科学技術は【魔法学】と呼称されるようになった。
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