プロローグ

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 冷たい風が吹き渡っている。  夕方を過ぎ、暗くなった街は一部では静けさ、一部では騒がしさが増す。  摩天楼があるような大都市でもなく、見渡す限りの田んぼや畑があるような田舎でもない景色。ごく一般的な建物と自然がある特徴のない街。  そんな街の中心にある駅を北から出て、数秒すると現れるいくつもの狭い路地。その中の一つを選んで右へ左へと進んでいくと行き着く。明りが点っている店も街灯もなく、そこにあるのはいくつもの廃屋という暗い場所。  そんな暗闇に覆われている路地に私はうずくまるように座っていた。  私は横を見る。  月影が雲に隠れ、光が照らす事もなく永遠に続きそうな暗闇。空からの光によって照らされていた廃屋も、月の光が消えると黒く塗りつぶされる。近くの廃屋の隙間から縫うようにして流れる風の音は鼓膜を震わす。けれど他には何も聞こえない。  安らげるような、安心感を与えてくれるものは何もない。  今が、この場所が、どこか違う世界で、もしかしたらこれは夢なのだろうかと思う。  私がさっきまでいた場所はいつもの日常だった。  学校に行って勉強に励んだり、部活で体をよく動かしたり、友達と楽しく笑いあったり、いつもの日常だった。  なのに、帰り道の途中。電車を降りて家に徒歩で向かっている途中に全てが壊れてしまった。  私は何もしていないのにそれは唐突に現れたのだ。  視線を外して、正面を見る。雲が月から少し離れて、少なからず明るくなっていた。  けれど私が見たかった場所は建物の影となって、そこにいる何かを消えさせている。  私はそこをじっと見た。  その場所が見えるかもしれないとかではなく、その場所にいる何かが気付いてくれると思ったからだ。
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