1人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
丁度、立ち上がった時と入ってきた時が一緒になった為、互いに視線が交わった。
「おはよう。誠君」
「おぉ、相変わらず冴えない顔やな、もっと元気出せよ佐奈野」
笑いながら水輝君の背中を軽く叩く。水輝君が困った表情で笑っていた。
誠君がこちらを見る。
「おぉ、珍しく紅夜がいるじゃないか」
「いて悪いのか?」
「いやいや、遅刻ギリギリでいつも教室に飛び込むキャラであったと思っていたのだ。あっ、それが許されるのは女の場合か、男の場合は、確か…」
「何を言っているんだ?」
顎に手を当て考えているようだった。それを横で微笑していた水輝君がこちらを見て、私と目が合った。すると何かを思い出したかのように口を開いた。直ぐに閉じると机の中の教科書の中から年季の入った本を取り出し、こちらに向けて歩いて来る。
「えっと、探していたもの見つかったよ」
「あっ、ありがと」
堅苦しそうな漢字の羅列が入った本を水輝君から受け取る。
「えっ、なになに? うわぁ、めっちゃ古そうじゃん。一体、何のために使うの?」
「少し調べたい事があってね」
夏美ちゃんが横から覗き込んできた。その隣で紅夜君も少し興味ありそうに目を向けている。
「明日、歴史の授業があるからね。そのための予習かな?」
上手く言い訳することに困っていたら、水輝君がそう問いをぶつけてきた。視線が合うとにこっと水輝君が笑った。彼はこの中身を分かっている。彼は気付かれないように計らってくれた。
「うん」
そう答えると、途端に夏美ちゃんと紅夜君の目から色が消えた。
「何してんだ? ん? 何だこれは? リアリティ満載の官能小説か?」
「あっ」
誠君がそう問いをぶつけて私からその本を奪い取る。それに夏美ちゃんが反応した。
「あんたに分かる訳がない代物よ。成績下位三名が見るもんじゃないわ」
「むむっ! これはっ!」
眼鏡を持ち上げてから、眉間に皺を寄せた誠君が賞状を渡す校長先生のような仕草で本を渡してくる。
「私には何も見えなかったで、ございます」
それから何気ない会話をして、いつの間にか教室に担任の先生が入ってきて、いつもの日常が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!