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「やっと、話せるようになったか」
凛とした声が正面から発せられた。その声には心配していたよう調子だったが、途端に変わる。
「遅んだよ!」
私はその言葉に肩を震わした。
暗闇の中から、全身を隠すような黒いコートと顔を隠すようなゴーグルをかけた少年がゆっくりと現れる。建物の壁にもたれていたようで、背中を軽く叩いている。
少年はゆっくりとした足取りで近づいてきて、私のすぐ近くまでに来ると、立ち止まる。すると突然、顔を唇が触れてしまいそうなほど近付けた。
いきなりの事に心臓が止まるかと思った。
「いいねえ。その顔。人間ってのはそうだから飽きねぇよ」
少年は笑い、離れた。
彼は言葉が汚い。それに、出会ってから自分に嫌な事がある度にこちらに八つ当たりのように暴言を言うし、人を怖がらせたりしたときに嘲り笑ったりする。
彼は私を助けてくれて、その事に関しては感謝をしているけれど、その彼が本当の意味で私を助けてくれたのか分からない。
彼は私の夢を否定するから。
私が安心するのを見てか、彼は言う。
「それでいいんだよ。てめえと俺の関係はそうでないと」
彼は満足そうに笑った。その表情は感情としては、どうなのだろう。
彼は私を見下すように見ていた。
私はそんな彼に向かって口を開く。
「私をどうしたいの?」
彼の行動が分からなかった。彼と同じ存在らしいアレは、私を殺そうとした。同じ存在なのに彼は私を助けてくれた。だから彼の考えている事が分からなかった。
彼は少しだけ無言になり、呆れたように言う。
「てめぇは当然、知っていんだろ俺が生きている為に必要であるものを、一般人であるてめぇが知らねぇはずがない」
「………」
「つまりてめぇが生きた理由がそれだ。単純だろう」
そう彼は答えを導く。
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