流れる音色

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(わざわざ、あんたが見なくてもいいでしょ) 「あはは。でも俺が本体だからさ。こうした方がいいでしょ」 (何を根拠に言っているのか知りませんが、寝る間も惜しまずにやっているあなたの体が持たず、反って迷惑になってしまうことが問題です) 「何度も学校で休憩しているよ」 (偽りの自分を演じているせいでほとんど休憩とれていないだろ)  ゴーグルの奥で苦笑いを浮かべた。  まるで子を心配する親のようだ。言い方はそれぞれだが、俺を心配していてくれていることには変わりはない。 「大丈夫。俺は憑く神。人とは違う生き物だから、体力とかそこの辺は心配しないでもやってけれる。今は独り身だからね」  そう言って、ロングコートの内側のポケットから何かを取り出して口の中に含めた。薬のような綺麗な形を成しているものではない。ごつごつしたようなものだった。  それを食べた時に口の中に甘い感覚が広がった。 (それって、いつも食べているよね?) 「そういう記憶があったからね。記憶はそういうものでもあるから」  家々の間に黒い道を作っては歩いていく。堂々と歩いているが彼を他の人が見ることはない。彼のいる場所には誰一人として彼を見る者の姿はない。周囲の警戒はもちろん、防犯カメラなどの警戒もしているし、防犯カメラもまさかそんな場所を道として歩いている事とは思っていない為、完全な死角となっている。  少し急いだ方がいいかな。  建物の影に隠れてしまった少女を見失ってはいけないと思い、駆けて行く。急がなくても、周囲に散らばった彼らがある程度位置を把握してくれるのだと思うが自分で見るのが一番いいと思う。 「あれ?」  少女が曲がって行った場所の近くに来たが、少女の姿はなかった。  もしかして気付かれた? いやそれはないはずだ。彼女は周囲を警戒するほどのひどい環境に置かれていないし、そういう性格はしていないと思う。
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