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それが本当だとしたら、彼は私を一時的に救ってくれた存在であって、私を本当の意味で救っていない。
今死ぬのか、後で死ぬかを私の意思とは関係なく決められただけ。
「最初からてめぇにはそれしかねぇんだ。俺達の世界に絡まれてしまった時点でな」
ゴーグルの奥で彼が私を見る。
何も変わっていない。少し前と自分の状況は何一つとしていい方向に進んでない。目の前に映る少年は私を飲み込む闇だった。
私は今日、死ぬ運命だったんだ。
そう思えてならない。
「ちっ」
突然、少年が舌打ちをした。彼は憎々しげに私がさっき見た方向を睨みつける。目を向けると、月影がそこを少しだけ照らしていて、他よりも明るい。目を凝らして見れば、その突き当たりのところにシャッターの下りた本屋が見える。
「もう見つかったのか。すぐに来る」
その口調は平坦で、凛とした声が耳によく残る。その音が頭で反芻している間に、見えていた本屋に不気味な影が伸びていた。
向かって左の方からじりじりと影が太くなり、そのものが近づいているのが分かる。その影には人間のような一つの細長い影ではなく、ところどころに細い影を持ち、蜘蛛のようにその細長いものが一つにまとまっている。
それを見た時に心臓が破れそうなほど打った。
その正体を一度見、その形もはっきりと覚えている。
それは私が今まで見てきた生き物とは姿も大きさも全く違うものであり、不自然で不快な存在だった。ただその存在は私に向けて明らかな悪意を持っていることだけが感じられた。
足が震えて、力が入らなくなる。腕に力を入れるが、腕も震えていて上手く動かすことが出来ない。
怖い。今まで感じていた何よりも怖い。
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