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「葵さん大丈夫? 顔色悪いようだけど…」
隣に座っていた水輝君が突然私の顔を覗き込むようにして見上げていた。
驚いて言う。
「あっ、うん。大丈夫。ちょっと、考えことしていただけだから」
「大丈夫ならいいけど」
水輝君は自分の頬をかくと、目の前の本に視線を戻し、彼は自分の本に集中し始めた。
彼は桜燈高校一年の佐奈野水輝君。同じクラスで私と同じ図書委員。部活はやっていないらしく、学校が終わるといつも直ぐに帰ってしまう。彼は物静かで、よく昼休みに読書をしている。陰険な性格という訳ではなく、人に絡まれればそれなりに話せるし、基本的に優しい。ただ自分から何かをするようなことは滅多にしない少年だった。積極性がないのだと思う。彼は綺麗な顔立ちをしていて、学校の中では美少年とも言える。彼の表情は一緒に話しているだけで温かな気持ちになるほど優しげで彼と話して嫌いになるような生徒はいないほどだった。
私はそんな彼が好き。あまり話さない私にも優しく話してくれたり、私の話を親身になって聞いてくれる彼を好きになっていた。多分、彼と同じ図書委員になったのも多く彼と話したかったからかもしれない。
読書をする水輝君を見て、周囲に視線を他に反らした。古めかしい木造の本棚が立ち並び、その中には多彩な種類の蔵書が綺麗に納まっている。その近くには指で数えられるほどの人が机に座って勉強か読書をするか、本を探してうろついている。
いつもの図書室がそこにはあった。
それを見ていると、昨日の事がまるで嘘のように思えた。
そんなことを思っていると昼休みの終わりを告げる音がスピーカーから私の耳に届く。ここにいた人たちもそれぞれが片付けに向かい、それを終えると同じ方向に向け、歩き出す。
水輝君も自分の呼んでいた本にしおりをはさみ、テーブルの上に置く。周囲を見渡して、片付けられていない本を見付けると立ち上がり、その場に行くと本を手に取り、元の位置に戻していく。
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