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アタマの地球儀を意味なく手で回しながら、逆さまのままの兄がユラユラとリビングに降りてくる。
まだ逆さまのままとか、どんなカラダの作りなんだろこの人。
「思いのほか手間取ったがナニ。
あぷりの部屋を隈無く探したら、『夜の蝶』とかいうBL系同人誌が一冊出てきたお陰で助かっ」
「さーっおにいちゃんっ体操しよっ!」
慌てふためくアタシを尻目に、スピーカーから軽快な音楽が流れだす。
ちゃ~ら~ら~らららちゃ~ら~ら~♪
ふらいんぐげっとぉ~ぼくはひとあしさきっに~♪
大好きなメロディーに合わせて、覚え立てのヲタ芸をノリノリでお披露目しちゃうオチャメなアタシ。
でも、りおママのゴーゴーダンスはまだしも
兄リュウジの、空中ブラジリアン柔術だけは、未だにイミがわかんない。
ニックんのシッポのヘビ頭が発する笛の音を合図に体操を終えると、ようやく朝ご飯スタートってのが、いつの間にか我が家の日課になってるんだよね。
「そうそうあぷり
そろそろテストが近いんでしょ?お勉強は大丈夫?」
りおママがプロの指揮者並みに軽快に指先を振るたびに、宙に浮いたポットからカップへと、アツアツのミルクティーが上品な音と共に注がれる。
アタシなんて未だにカッコばっかりの魔法ステッキから出てくるのは、ナゼか『腐』の文字が4つだけだっていうのに。
でもアレって、絶対おにいちゃんが小細工してるに決まってる。本人は絶対白状しないんだけど。
そんな落第生のアタシだけに、りおママの言葉には超ビンカンに反応してしまう。
「まさかあぷりったら…またひなたく」
「えぇえっなんですって!?りおママッたたたいへんっ
おおお庭の火から薔薇が放火したってっっ!!」
「なっ…なんですっとぇえっ!?ウチの薔薇が…火事やとぉ!?
いてまうど放火魔がゴラァアッ!!」
薔薇園の方向を見ながら、思わずアボカドを鼻に詰まらせたアタシ他1人と1匹をリビングに残して、りおママ…鬼の形相の成人女性の姿が霧のように消え去った。
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