恋、それは苦行と読む若人特有の一過性の症状と文字数オーバー

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‡‡‡‡‡‡‡ 手のひらにかざした大粒のブラックパールが鈍い光を内包して、妖しい輝きを放つ。 その丸い世界に写る2人の姿を確認して、彼女は満足げに長椅子に腰をおろした。 樹木の歴史を感じさせる凛とした風合いの背もたれを優しく撫でながら、片方の長い指先で首筋に巻かれたピンクパールをスルリとなぞる。 「さて、いよいよですお。心の準備は出来て?」 彼女の吐息とも取れる囁きに、ピンクパールが真紅を称えて反応する。 「そう…彼女には些か感づかれてはいるようだけど…プロジェクトの全貌までは知り得ないですお。 彼女の能力には、メンバー全員が全神経・全魔法エネルギーを研ぎ澄まして警戒していましたから。まぁ『モモクロ』さんだけは、軽くやらかしてしまいましたがね。 とはいえ完全に気付いたとて容易いですお。えぇ絶対に従う筈です。 『親友の彼女』だからこそ、ね。」 ピンクパールが火照った色を灯すたびに、アワDeダンスクール学校長のアーワはその端正な面差しに満足げな微笑を浮かべる。 妙齢の彼女の、微かに幼さの残る魅力的な瞳の奥には、人知れず遊技を楽しむ子供のような悪戯っぽい光が宿っていた。 「ふふふっそれは昔のよしみで言いっこ無しですお『ラブマシーン』 あなたがワタクシにした仕打ちは、そりゃあ一生モノの消えない傷ですけれど。なんて… 本当に罪な人ですおねアナタは。」 パールの色合いをあえて嘲笑うように、窓辺に咲き乱れる弦薔薇の一輪へと彼女はうっとりとした眼差しを向ける。そのままスカートの衣擦れの音と共にそっと歩み寄った。 「そうですお。ワタクシたちの命運は彼女と共にあります。 だからこそ、このプロジェクトには意義があるのですお。 かつてアナタがあの方を敬愛したようにね。 …え?ふふふっ隠したって分かりますお。 次に見る景色がどんな色を放っているのかくらい、アナタはとっくに知っているんでしょう?」 彼女の手が花弁に触れる。 と、途端に弦薔薇はその鮮やかな姿を黒々と変色させ、瞬く間に紙切れの如く散り落ちた。 「こちらでの手筈は全て整っています。 さぁ時は満ちました。どうぞ恍惚の時を成すがままに――」 時の狭間を統べるかのような言霊と共に 彼女は校長室の重厚な扉をゆっくりと開け放った。
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