独裁者

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 その問題はすぐに解決した。政府が新たな指導者を用意してくれたのだ。前の独裁者と同じく、非常に優秀な人物を。というよりも、死んだはずの独裁者とそっくり、そのまま同じ人間だった。これには、外国だけでなく国民も驚いた。  殺されたと思われた独裁者は影武者だったかもしれない。いや、この独裁者こそ、影武者だ。本物が死んだのを良いことに表に出てきたんだ。などと、国内外でまたしても、憶測を呼んだ。  新たな独裁者の素性は分からないが、優秀な人物が再び表舞台に出てきたのは間違いなかった。国民は喜んだ。国が他国に併合されるという危機を乗り越えることができたのだから。  外見がそっくりな独裁者であるが、前の独裁者とは大きく違っていた。何が違うのかというと、性格だ。前の独裁者は才能はあるが、すぐに人を処刑するような暴君であった。けれど、新たな独裁者はとにかく優しく穏やかな性格をしていた。街に自らの足で出向いては、国民の意見を聞いたりもした。元々、優秀な独裁者だったので国民の意見を的確に反映させ、国をより豊かなものとした。  有能なままで性格が穏やかになったということは、国民にとって、とても嬉しいことであった。かつては、不満を懐いていた者達も納得して、今度は大丈夫そうだと解散した。外国からの批難も寄せられることはなくなった。  ところが、今度は別のところで問題が起こった。独裁者の側近達だった。前の独裁者の時は、隙を見ては甘い汁を吸っての生活をしていたのだが、新しい独裁者が誕生してからは、国民に全ての利益が優先され側近達に甘い汁が流れてこなくなった。  これには、贅沢を覚えてしまった側近達が憤慨した。今の独裁者をなんとかしなければ、自分達は楽に生活することができない。側近達の間で暗黙ながら、そのような考えが広がった。  独裁者だけが、甘い汁を吸っているのではないか。そう思い、独裁者を調べてみたが、前の独裁者と同じく問題はどこにもなかった。理由をつけて、政権の座から引きずり落とそうとしてもうまくいかない。今度の独裁者は国民から高い支持を得ていたので、容易に手出しできそうにない。
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