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彼の両親とその妻の母は泣きながら私の話しを聞いていた。
絶対に治るからと、目を覚ますからと言ってやれたらどんなに救いになるだろうか。
人の命に絶対はない。
下手に期待をもたせても病状が緩和しなければ傷つくだけだ。
だからいつも有りのままを患者やその家族に話してきた。
その場で泣き崩れる者もいたがその後にはすっきりとした顔になる者もいた。
残りの半生好きに生きて死んでいくと笑う者もいた。
だが今回は違うだろう。
彼の妻は妊娠している。
これから家族になるというのに…。
死別ならば再婚という方法もあるだろうが彼は生きている。
延命装置を外さない限り死ぬ事はない。
「外傷は治ります。ただ意識の戻る可能性は極めて低いです。」
みな声を出し泣いている。ただ彼の父は違った。
「植物状態ということですか?」
毅然とした態度でただ拳を強く握りしめていた。
「そうです。植物状態から意識を取り戻す人もいますがごく稀にしかいません。」
「このままずっと意識も戻らず泣いている姿を見せる訳にもいかない。いっそ楽にしてあげたいがこいつはこれから父親になるんです。少しでも可能性があるならそれに賭けたい。」
彼の父親の頬をゆっくりと流れる涙からは悔しさや悲しみがたくさん伝わってくる。
その涙を止められるのは今も眠り続ける彼しかいない。
「時間はかかると思いますが一緒に頑張りましょう。」
今はそれしか言えなかった。
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