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彼女の手が止まる。
その一瞬を俺は見ていた。
「すいません、お客さん。下手な冗談でしたら警察呼びますよ」
「呼びたければ、好きにしてくれ。ごめんな、ゆきこ。俺、何にもわからなかったよ」
自分でも分かった。俺は今泣いている。恥ずかしいくらいに泣いている。
「この12年間、俺はどれだけ楽をして生きてきたかよーくわかったよ。ゆきこ、お前の苦しみに比べたら、俺の12年間は遊びと同じだ」
彼女は黙って俯いた。
「子供、ダメだったんだろ?ゆきこ。頼みがある、君はこれからも男性を拒んで生きていくつもりだろ?子供の為に。だったら、だったら俺ともう一度、出会ってくれないか!!」
彼女の手に、彼女の涙が零れているのが見える。
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