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「もういい。何も言うな。俺は全部知ってる」 その時、胸の鼓動が二重になって聞こえた。 まずい、喘息か。 いや、呼吸は普通だ。 すぐに俺は胸を見る。 すると、あの干しすだちが、心臓のように音をたてていた。 ドクンドクンと。 「ねぇ、ヒロカズ。今、赤ちゃんの泣き声がしたような」 え? 確かにそこには赤ちゃんの泣き声があった。 力強く、この世の中を必死で生きようとする声が。 その声はすだちの鼓動に合わさるように泣き、そして、スーッと消える。
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