~夢を見ない~

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 着付けていた白の胴着を脱いで、ノロードは薄着で眠りにつくシルストにそっとかけた。上は肌着のみになった彼は、寝台のない二階に上がらず、充分休める長椅子に横たわる。  瞬きを何回かしたノロードは、体を丸めて夢に誘われて行った。        †  朝の日差しが屈折を繰り返して、入り組んだ住宅街に差し込む。その輝きもシルストの自宅にも燦々と差し込んだ。  長椅子に丸まっていたノロードが、固まった体を起こし伸ばした。 「う…うぅん…! 」  目をこするノロードは、ぼやける視界で周りを見渡すと、昨夜机に突っ伏していたシルストの姿が見当たらない。ノロードは不審に思い、耳をそばだてた。  大量の水が流れる音が、風呂場の方からかすかに閑静な居間に流れ込む。その音のする方へノロードは駆け足で赴く。  やはりその音は風呂場から出ていた。まさかと頭に一抹の不安をよぎらせるノロードは、戸に手をかけて迷いなく引く。するとそれに驚いたシルストが赤面して叫んだ。 「ノッ、ノロード!? うわあぁっ!? いきなり何すんだよ! 」 「ご、ごめん! 起きたら姿が見えないもんだからオレてっきり…。安心した」  体の中を抜け出る不安に心を撫で下ろすノロードは、眉を八の字に寄せて風呂場の戸を閉めた。 「シルスト、部屋で待ってる」  一言あっさりかけると、ノロードは脱衣所から離れた。自信に欠ける象徴術は、きちんと親友を守れてるとノロードは部屋に戻る。  それからしばらくして水の音が止まった。部屋に戻って来るシルストに、誠心誠意を込めてノロードが謝罪する。 「…いきなり扉を開けて悪かった」 「あはは! 驚いたよ。あんなに慌てたノロードを見るのは久しぶりだ」  腹を抱えて大笑いするシルストは、割り切れていないノロードに優しく言葉をかけた。 「…象徴術を構築する事が苦手なんて思うな。俺はノロードの象徴術で今日『悪夢』を見なかったんだ。ノロードは充分象徴術を使いこなせてる」  彼の言葉に励まされたノロードは、ようやく強張っていた顔をほぐす。
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