~夢を見ない~

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「励ましてくれてありがとう。まだやっぱり自信ないけど…、シルストがそう言ってくれるとそう思えるよ」  両方の拳に力を込めてノロードは、この街に訪れた理由を、鞄を取り出しながら改めて説明した。 「これからの事なんだけど、カルア師匠の頼みで象徴術を込めた銀細工を売り出しに行きたいんだ」 「なるほど、どれどれ…? なんだこれ、女の子向きの装飾品ばかりだな」  説明を聞いたシルストが、彼が旅の傍らに抱えていた鞄を覗く。男性物の銀小物がないかと探す姿に、ノロードはすっぱりと言い放った。 「残念だけど、シルストが好むような物は作ってない。それからその方が受けが良いだろって師匠が。図案提供はヒューラがしてくれた」  同郷に置いてきた幼なじみが考えた設計に、シルストは目を見張って驚く。そして繊細な作りにも見える銀小物を、設計を頼りに作り上げた目の前のノロードにも拍手を送った。 「へぇ、ヒューラが図案を組み立てたのか。でそれをノロードが作ったと。二人共器用だな」 「たくさん失敗したよ。ほんとあれはヒューラの手本がなきゃただの銀の塊だった」  その例えようにシルストは容易に想像して笑う。言い返す事が出来ないノロードは、小さく肩をすくめて脱線した話の内容を戻した。 「はは…、でさ。大通り以外ならどこに売りに出したら良いと思う? 」  真剣そのもののノロードに、ふざけて笑い飛ばしていたシルストが、真摯的な態度で返事を返した。 「たくさんの女子のが通る通りなら幾つかある。学校の通学路に絞って俺も売るの手伝うな」 「やった! 何から何までありがとう! 泊めてもらったうえに、売るのも手伝ってもらってなんか悪いよ」 「良いよ、じゃあさ朝食をこしらえてから外に出よう」  出来合いの食料品をシルストは、昨日と同じ食卓に並べ始める。簡単に朝食を済ませた二人は、鞄の中の荷物を二つに分けて家を後にした。  如何にもたくさんの人が、通行と通学に使う道に出た彼らの内、ノロードがここで売り子をする事になった。後で迎えに来ると約束をかけたシルストを見送り、ノロードはさっそく呼びかけを試みた。 「素敵なまじないがかけられた小物を売っているよー! ちょっと足を止めて見てってくれー! 」
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