01:通勤電車の少女

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 思わず彼女を見つめてしまう俺。彼女も、目の前に立ちふさがる形になった俺のことを、少し驚いたような表情で見上げ……目が合ってしまった! まさか、こんな至近距離で彼女と見つめ合うことになるなんて! ……が、それも一瞬のことだった。互いに目を反らしてしまったからだ。いや、だって恥ずかしいし。  にしても、この娘(こ)ずっと俺の背中の席に座ってたんだろうか? それなら、そうと一声かけてくれても……って、知らないオッサンに、そんなことするはずないよなあ。まあ、ともかく会えて良かった。きっと昨日、一昨日は風邪でもひいてたんだろう。  久々に会って改めて思うけど、この娘、ホントに制服が似合ってるなあ。というか制服姿しか見たこと無いんだけど。他の生徒と同じ制服なのに、まるで彼女のために作られたオーダーメイドみたい。深緑色のセーラー服っぽいブレザーと、今時の女子高生らしく少し丈の短いプリーツスカート。そしてワイシャツに赤いリボン。緑や青のリボンをしている生徒もいるけど、おそらく学年を現しているのだろう。  なんてことを、ぼーっと考えてると、ガックンとさっきより強い震動があり、珍しく電車が大きく揺れた。 「あっ」  小さく声をあげた彼女が、バランスを崩して俺の胸に飛び込んできた。やたっ! 大ラッキー! ……と同時に右足に痛みが走った。彼女に思いっきり足を踏まれたのだ。俺の胸に片手を当てるように寄りかかった彼女がハッとした表情で顔をあげる。一瞬、大きな瞳に見つめられた俺の頭の中が真っ白になった。 「ご、ごめんなさい!」  慌てて飛び退く彼女の声で、俺は我に返った。 「痛っ……くない。うん。大丈夫。大丈夫。痛くないよ」  ああ、そんなに慌てて離れなくたっていいのに……。少し顔を伏せている彼女。表情はよく見えないが、顔が紅いようにも見える。  ほどなく駅へ到着したという車内アナウンスがあり、電車はホームに停車した。ドアの脇に立つ俺の横を彼女の友達が降り、続いて彼女も降りかけて、立ち止まった。チラッと俺に向けた視線、その瞳は何かを訴えているようにも見えた……が、すぐ、小さく御辞儀をすると、ちょこちょこっと足早に駆け降りてしまった。
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