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02:深夜の再会
「行きたくねーなー」
……っと、やばい、やばい。心の声が口から漏れてしまった。小声でつぶやいたんで、誰にも聞かれてないとは思うけど、気を付けないと恥ずかしいことになる。
そんなことを考えてると、もう目の前に見慣れた小さな駅が迫っていた。しようがない。行くか。今日は、ほんのちょっぴりだけど、初めてあの娘と会話できた。この幸せをエネルギーに一日頑張ろう。今日さえ乗り切れば、明日の土曜と日曜は休みのはずだ。
俺はドアが開くと同時に飛び出した。改札は目の前。それを計算して、あの位置に乗っているのだ。少し早足で改札を通り抜けた俺は、速度を維持したまま駅を後にした。会社まで普通に歩けば十五分かかる道のりを、二、三分短縮しなければ定時に間に合わない。あの娘と会える電車に乗ると、時間ぎりぎりになってしまうのだ。
あまり広くはない道路の歩道をのんびり歩く学生達。俺はその間をすり抜け、どんどん追い抜いていく。百人ぐらい追い抜いていかないと間に合わない。横に並んで歩いてる学生もいたりして、すっごく邪魔くさい。会社より少し手前にある高校の生徒たちだが、こんなにのんびり歩いてて、遅刻しないんだろうか?
おっと、人の心配なんてしてる場合じゃなかった。急がねば。目の前に迫ってきた五十メートルほどの橋を渡りきれば、会社は目の前。川沿いにぼうっと建つ鮮やかなオレンジ色の四階建てビルが俺の目的地だ。しっかし、なんでこの色? 夕暮れ時は空に溶け込んでそれなりに奇麗なんだけど、今日みたいな良く晴れたさわやかな朝には非常に不似合いだ。
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