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「ふぅーっ」
今日もぎりぎりセーフ。何とか間に合ったが、おかげでへとへと。息も上がってるし、自分の席に座るとき、危うく「どっこいしょ」と言うところだった。嫌だなあ、我ながらオッサンくさい。
席に着いた俺は、PCの起動画面を見ながら、社内の自販機で買った缶コーヒーをゴクリと飲んで一息ついた。PCが起動したら、まずは社内ネットにアクセス。今日の自分の予定を再確認する。いつの間にか上司にしょーもない予定を突っ込まれていることがよくあるが、今日は大丈夫みたいだ。さて、それじゃあ、とっとと終らせて、さっさと帰ろう。ちなみに、俺の所属はおもちゃの開発部門だ。
こんな俺でも、入社したての頃は夢いっぱいで『おもちゃ開発』に燃えていた。しかし、出す企画、出す企画が、ろくに検討もされず、すべて没になり、仕事は上から降りてきた企画の修正をするばかり、という毎日に、すっかり気力が無くなっていた。もちろん、すべて会社が悪いわけではない。こんな環境でも、すばらしい製品を生み出している部門だってある。自分の努力が足りないのだ。目が濁ったオッサン達にも『これはすごい!』と思わせるような企画を出せばいい。……と、わかってはいるんだけど。わずか入社三年でこの堕落っぷり。我ながら情け無いとしか言いようが無い。
「はぁ……」
俺は帰り支度をしながら、思わずため息を漏らした。定時に帰るつもりが、もう十一時近い。定時間際に予定外の打ち合せが始まり、その上、打ち合わせの議事録を書かされることになったので、こんな時間になってしまった。いつもどおりの帰宅時間なんで、むしろこれが定時と言えるかもしれないが……って、嫌だなあ。今日も、家に着いて食事をしたら日付が変わってるパターンだ。まあ、土日の休日出勤を回避できただけマシと思うしかない。
帰り際に、ふと隣の部署を見たら、まだ半数以上の社員が残っていた。家庭向けゲーム機を開発している部門だ。新製品の量産が近いので、ラストスパートに入っているのだろう。会社的に力を入れている製品で、開発部門の同期と話したときも、かなり自信のある様子だったっけ。俺は心の中で(お先に)と言って会社を後にした。
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