2枚の楽譜

4/13
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「もうレストラン予約済みよ」 「うわーっ、ありがとう楽しみだな」 飛び上がってる葉子を見ていると、千江もいいことがあった気がして、うれしくなる。やっぱり、いくらケンカしても、双子なんだね。  でも、いくら待っても迎えは来なかった。二人は一緒のかさに入って、震えていた。 「遅いね…」 千江は不安になって、葉子に尋ねた。いつもなら15分とかからないはずだが、すでに30分経過している。 「どうしたんだろうね」 「安心しなよ。レストラン行くから、お母さんがお化粧に手間取ってるのよ」 葉子はそう言って、千江をなだめた。 ─さらに10分が過ぎた。 「おかしいよ、なにかあったのかなぁ…」 今度は、千江は泣きそうな声で、葉子を揺すった。 「もう一度電話してみるからさ。お父さんの携帯電話に」 でも、つながらなかった。ますます不安がる千江に、 「運転中だから、電源きってあるだけだよ」 となぐさめたが、もう千江はいてもたってもいられない様子で、 「怖い、怖いよ、なにかあったんだ…」 「だいじょうぶだって」 同じ年齢。葉子だって、不安で、胸が張り裂けそうだった。でも、ここで自分が崩れてしまう訳にはいかない。  携帯電話が鳴った。表示を見ると非通知だった。怖かったけど、葉子はとりあえず、 「はい、扇葉子ですが…」 「あ、扇和夫さんのご家族ですか?」 「そうですけど」 「私、F病院の者ですが、扇さんの夫婦が事故に遭われて、今、この病院で治療しているので、至急、こちらへ来てもらえますか」 「は…」 一瞬訳がわからなくなった葉子は、気のぬけた返事をした。千江は相変わらず心配そうに、 「ねえ、お父さんからなんでしょ、代わってよ!」 「うるさい!」 葉子はその場にうずくまり、泣き崩れた。  F病院へは、咲子先生の車に乗せていってもらった。到着するやいなや、医者に両親がいる集中治療室へ案内された二人は、言葉を失った。信じられなかった。これが現実だとは。親が、様々な機器囲まれ、包帯で体中を縛られ、人工呼吸器を当てがわれている。父親がいつ死んでもおかしくはないと、二人は直感的にわかった。 「お父さん…、あれっ、お母さんがいないよ…」 千江が耐えられなくなって、中に入ろうとすると、医者に制止された。 「これを着て、入りなさい」 二人とも医者の指示された服と帽子を着用し、中に入った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!