夕暮れの京、狂う歯車

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「それ、本当ですか!?」 おかしい。 明らかにおかしい! だって、私の故郷……もとい実家は京都ではない はずだから。 「おかしな人やなあ。」 そう言ってまたくすくす笑う女の人を よく見ると、街の方で祭のような催し物が やっているにぎやかさがないのに着物を 着ている。 足袋を履いて、下駄を履いている。 それに周りを見渡すと、住宅のようなものはなく 至るところにお寺が点在している。 これらを総合してみると、ここはやっぱり……。 「京都……?」 そう呟くと、女の人は優しくこう言った。 「京の夜は色々物騒ですし、暗くならないうちに はよ帰った方がいいですよ?」 そう言い残し、女の人はゆったりとした所作で ここから去っていった。 (帰った方がいい、か……。) でも、本当にここが京都だというのならば 大人しくしていられるわけはない。 「今晩だけ、京都の夜の街を探検しちゃおうかな!」 何故京都に居るのかは分からないけれど、 こんな機会滅多にないし。 (うん、そうしよう!決まり!) とは言っても、今は夕暮れ。 まだぎりぎり遊べる時間! 「まずはどこに行こうかな!」 私は、髪や服についている草も取らずに弾む 足取りで原っぱを後にした。 その後――。 「てぇへんだ、てぇへんだ!」 そう叫びながら何かを配る男の人とすれ違った。 後に分かった事だが、彼は瓦版売りの人らしい。 あいにくお金がなかった私は、その場で 彼が瓦版を売っている者だと気付いても それを読む事は叶わなかったけど。 そして、その後も。 「きゃっ、きゃっ!」 近くでこどもが遊んでいるのか、はしゃぎ声が 聞こえてくる。 と、そこへ。 私の足元にボールが転がってきた。 その直後。 「お姉ちゃん!毬(まり)取って!」         ̄ 「え?」 最初、毬というのが何なのか分からなかった。 一呼吸置いてやっと、この子が言う毬というのは このボールの事であるということを理解した。 (何……何が起きてるの?) 瓦版売りがいたり…… ボールの事を毬って呼ぶこどもがいたり…… 普通に着物を着て歩く人がいたり……。 まるで江戸時代に迷いこんだみたい。 「でも……。」 少し、恐い。 ここで、私の知っている事が通じないのは 正直恐かった。 これが―― これが、私が夢にまで見た京都……?
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