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「私の知っている世界とは、違う。」
そんな一言が、自分の意思とは関係なく
私の口から飛び出した。
「私の知っている世界は、誰からも何にも
強制される事がなくて、新しい物だって
毎日のように生まれてた。
それに過去を知る事だって簡単に出来たはず
なのに。」
「何だそれ……?
この世界とは正反対じゃないか!」
ということは――
「私は、この世界の住民じゃない?」
「……………。」
佐之目さんは、難しい顔をして考えこんで
しまった。
それなのに、空にある月はそんな私たちを
嘲笑うかのように輝いている。
「あ~、もう!やめよう!考えた所で
すぐに答えが出るわけじゃないんだ!
考えるだけ無駄だ!!」
佐之目さんが、頭を掻きながら言う。
「前にどんな世界に居たとしても
今、お前はここにいる。それは変わらない。
なら、あたしたちと一緒に居よう。
ここにいて、一緒に考えよう。」
そう力説ながら佐之目さんは私の顔を見据えた。
曇りのない、真っ直ぐな瞳で私を見つめる
その佇まいは、まるで月のようだった。
今宵のように嘲笑っているような月じゃなくて、
凛とした、曇りも迷いもなく悠然と
夜の空に浮かぶ満月のような、威風堂々とした
立ち振舞いだった。
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