第壱章

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今日も、いつもと変わらない日常が繰り返されるのだと、俺は思っていた。 そんな日常がいとも簡単に崩れ落ちるなどこの時の俺は全く想像がつかなかった―――否、想像をしなかったのだ。 「…何で此処に来たの?今日は来ないと思っていたんだけどなぁ」 屋上に足を踏み入れて俺と幼なじみである望月美咲と目線が合うや否や、いつもと違うゆったりとした口調で美咲は淡々と言葉を繋げた。 しかし、問題はそこじゃない。美咲の居る場所が俺にとっては衝撃的で信じがたいものだった。 「サボりはダメだよ、まあ…あたしも人の事言えないんだけどさ」 「んなことよりお前!何で」 「そういえば!今日あたし初めて授業サボったんだよー」 「人の話を」 「それでねー、普段は全然読まない癖に本読んだんだよ。しかも大宰治」 「美咲」 「でもってー」 「美咲!!」 いくら話をしようとしても俺の話を聞きたくないからか、俺が話そうとする度に違う話をし始めるので名前を大きな声で呼ぶと肩をびくりと跳ね上がらせてから、一気に無表情になった。 その時の美咲の目はとても冷めていてまるで全てを拒絶しているかの様だった。正直、怖い。 餓鬼の頃からの付き合いでこいつがとんでもなく不器用で素直じゃなくて、口下手とか美咲の事は結構知っているつもりだった。だからこそ初めて見る美咲の表情に驚いて戸惑いを隠せない。 「何で、そんな所にいんだよ」 「何でって聞かれてもなぁ…、見て分からない?」 「わかんねえから聞いてんだろ」 「そっ…か、」 美咲は自嘲気味に笑うと、屋上の端にある落下防止用の手摺りから降りた。 しかし、降りたのは中側ではなく外側で、足を一歩踏み出せばまっ逆さまに落ちていく。 まさかこんな行動に出るとは思わず俺の頭は最早パニック状態。 「な、に…するつもりだよ」 「わかるでしょ、このくらい。祐斗がそこまで馬鹿じゃないって知ってる」 ―――祐斗の考えていること、多分正解だよ。 という、美咲の言葉を聞いて俺の頭の中では最悪のシュチュエーションが浮かび上がった。
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