彼女と潮風①

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「いや~気持ちいいねぇ~なんか『海』って感じ!!」 なんだそりゃ、と思わず笑ってしまいそうになったが 彼女が喜んでくれているのは僕としても嬉しい。 潮風が隣を歩く彼女の白いワンピースをなびかせる。 潮風は、苦手だ。 元々僕が住んでいる所には海がない。慣れていないのだ。 どうしてこう、独特な匂いがするのだろう? 疑問に思っていると彼女が不思議な答えをくれた。 「それはね。『生命の匂い』なんだよ」 海で生きていた魚たちが命尽き、海で腐った匂い。 それが潮風の匂いなのだ、と。 なるほど、だから『生命の匂い』なのか。 生命・・・・・・僕は一度、生命を捨てようと思った。 仕事がうまくいかず、地元から逃げ出すように 車を飛ばし、辿り着いたのがこの場所だった。 何年かぶりに見た光景。 一面に広がる砂浜と、果てしなく続く海。 強い風を受け、大きな音を立てる波。 そして・・・・・・鼻につく潮風の匂い。 車を降りた僕はふらふらと海まで歩いて行った。 子供の頃、遊びに来た記憶を思い出したのか。 ドラマで見た、海で自殺するシーンを思い出したのか。 あのときは何を考えていたのか忘れてしまった。 ああ、靴が濡れてしまう。 海水が足首まで浸かる。 そうか、海ってこんなに冷たかったのか。 このまま前に進めば死ねる。 もう・・・・・・いいんだ。 疲れたんだ。 このまま死んでしまえばどんなに楽なんだろう。 どうせ、ドラマのように僕を止めてくれる人などいない。 そう思っていたとき。 「なにやってるんですか!?」 後ろから声が聞こえた。
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