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「それは、『イカナゴのくぎ煮』っていいます。あぁ、釘は入ってませんよ?甘辛い佃煮です」
「どうも。いただきます。」
不思議そうにくぎ煮を見つめたその人は、返事をしながらタッパーのふたを閉めた。
「ほら、陽菜子!あんたも挨拶せな!あんたがお世話になるんやから!」
お母さんに背中をバーンと叩かれて「いたっ!」って小さく叫ぶと、目の前の人の視線が私に降ってきた。
うっ...怖い!
あれはカラーコンタクト?
不覚にも、綺麗だなって一瞬思ったグレーの瞳が私を見てる。
「う、宇佐美...陽菜子です。」
「ども。」
あぁ、絶対この人怖い人だ!都会にはくりくりした目でカッコいい人ばかりやって誰かが言ってたのに!
チラッと上を向いたらその視線と私の視線がぶつかった。
何故か恥ずかしくて顔が熱くなる。
「...」
そんな私を表情ひとつ変えることなく、じっと見つめるその人。
「じゃあ、失礼しますね」
お母さんの言葉でハッとして私は、ガチガチ緊張したまま後ろを向いた。
ガチャン。
お隣さんの玄関の扉が閉まる瞬間
「ぶっ」
その人が吹き出して笑った声が微かに聞こえた。
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