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「じゃ俺が何を言っても
絶対泣かないって約束する?」
「…なっ…泣かないよっ」
もうすでに涙でぐしゃぐしゃな
姫の顔にクスッと笑みを見せてから
俺は覚悟を決めて、
正直な思いを言葉にした。
「とてつもなくマズイ。
味噌汁は尋常じゃないほど
塩辛いし、唐揚げは焦げてるし
おひたしも茹で過ぎ。
包丁がうまく使えないのは
毎日握ってればいずれ
上達するだろうから
それは我慢するけど…
せめて料理しながら味見するとか
野菜も切れてるかどうかの
確認くらいは、してくれ」
歯を食いしばって
プルプルと震え出した彼女。
二人の間に微妙に流れる空気。
だけど…
「それでも千夏が
作ってくれた事が
俺は本当に嬉しかった。
すぐに出来るようになるとは
思っていない。
ただお前は諦めないで
努力する根性を持ってるから
必ず料理だって上手になる。
それまでは俺も一緒に作るし
教えられる事は教えてあげるし。
何でも一人でやろうとするな。
二人で歩むのが結婚だろ?」
黙ったままの千夏の瞳からは
やっぱり大粒の涙が
零れ落ちて行く。
「ホラ泣いてるじゃん」
「泣いてないもん」
「泣いてるだろ」
「泣いてないっ」
ホントに我儘で強情な
お姫様だけど。
そんな千夏も愛しくてたまらない。
俺…よほどコイツに
骨抜きにされてるな…なんて
思いながら小さく笑った。
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