彼女の想い

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…が。 千夏が俺に与える試練は 食事だけじゃなかった。 同棲開始から2日目。 仕事を終えて帰宅して 風呂から上がると 洗濯機が動いている。 共働き状態だけに 洗濯も夜しか出来ないし それをしてくれる千夏に 感謝しつつリビングに行って そのまま俺はまた固まった。 …何故なら リビングのソファーの所に 脱いでおいたスーツが 忽然と消えていたからだ。 今日もキッチンで包丁と 格闘している千夏に 恐る恐る声を掛ける。 「千夏、俺のスーツは?」 その声に顔を上げた千夏は 満面の笑みで答えた。 「洗濯してるよ」 軽く眩暈を感じながら 俺は慌てて風呂場に戻って 洗濯機を止める。 「千夏、ちょっと来て」 俺の呼びかけにご機嫌に 返事をした千夏がやって来て 止められた洗濯機の中を覗くと 首を傾げて聞いて来た。 「どうしたの?」 「ひとつ聞いていい?」 「うん、何?」 「千夏のお母さんはスーツを 洗濯機で洗ってた?」 「……分からない……」 申し訳なさそうに 俯いた千夏の姿に さすがの俺もガックリと 肩を落とした。
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