新たな地へ

6/10
前へ
/39ページ
次へ
その夜、俺は朝日奈さんから 貰ったあのCD-Rと役所で貰って来た その用紙を持って家に帰った。 「ユキくんおかえりー!」 キッチンから聞こえて来る 千夏の声に微かに緊張しつつ。 「ただいま」 平静を装ってリビングのソファーに まずは腰かけて。 ふうっとひとつ深呼吸してから すっかりリズム良く包丁の音を 立てる千夏に声を掛けた。 「千夏、晩飯はまだいいから ちょっとこっちに来て」 改まって言った俺に 千夏は無意識に構えている。 …いや…別に怒ってないから。 どうも俺が呼びつけると また何か注意されるとでも 思っているのかも知れないけど。 俺の気配をじっと伺うような そんな瞳を向ける千夏に ニコリと微笑んで、 テーブルの上にCD-Rと 封筒を差し出した。 「…何?これ?」 「まずはそのCD-Rをかけてみて」 首を傾げながらコンポに CD-Rをセットした彼女。 やがて流れ始めたその曲に ピクンと彼女の背中が反応する。 「どうしてユキくんが これ持ってるの??」 ずっと黙っていようかと 思ってたけど… もう何ひとつ隠し事はない俺で この言葉を伝えたかったから。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2983人が本棚に入れています
本棚に追加