新たな地へ

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「千夏、明日入籍しよう。 その封筒の中には 婚姻届が入ってるから。 俺の名前はもう署名済み」 俺の言葉に固まったまま あんぐりと口を開けている千夏。 しばしの沈黙の後、 やっと言葉を発した彼女は 予想通り怒ってる。 「ユキくん私の話聞いてた? どうしてユキくんがこのCDを 持ってるのかって聞いたんだけど」 「それは後でゆっくり話すから。 それより返事は?」 俺の言葉に頬を膨らませたまま 千夏は答える。 「だから… そういう事はもっとさぁ…」 「ロマンチックな場所で 言って欲しかった?」 「分かってるなら どうしてそうしてくれないの?」 プンプン怒ってる千夏を 優しく抱き寄せて。 「思い立ったが吉日って言うだろ? それともそういう俺は嫌い?」 少し首を傾げて聞いた俺に 千夏は瞳を揺らす。 「…好きに決まってるじゃん」 「だろ? じゃ返事はどっち?」 じっと見下ろした彼女は やがて真っ赤な顔になって。 「よろしくお願いします」 返って来た答えに俺は 大満足で微笑んだ。 「週末、香港に行くぞ」 「え??」 「俺と千夏の新居を探しにな」 その言葉で千夏は全てを 悟ったみたいで。 「大変! 拓馬君に連絡しなくちゃ!」 慌てて俺から離れて携帯を 掴んだ千夏にクスクスと笑った。 CD-Rの件の追及を、 すっかり忘れてしまった様子の 彼女にホッとしながら。
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